「うつ」と向きあって
〜その6「うつ」の状態 Lv.4〜

友達に言われて思い返してみた。
までは、ただひたすらに時間と追いかけっこの毎日だった。
小さい時から、「一生懸命」がトレードマークのように、
ネズミのようにくるくる何にでも必死で取り組んだ。

「うちは、お金がないから大学は国立で、浪人もだめだよ。」
下に二人の弟がいるからそのためにも必死で勉強した。
高校、大学、採用試験。
みんなストレートで通っていって就職。

夢中で仕事をして、仕事に慣れた2年目の終わりには
年老いた両親に、早く孫の顔を見せたかったためもあり結婚。
なのに子供ができずに病院に通ったり、
だんなが仕事を休職したり、
職場の組合の役員に選ばれて会議三昧だったり。

待ちに待った子供が生まれたのは結婚して5年目で、
父の病気、母の病気を看ながら子育てし、
もう一人の子供も生まれて幸せながらも大忙しの毎日。

家族のために頑張って家を建て、息子も娘も小学校に入って
ほっと一息ついたところだった。

いつも頭の中には、「人のため」が一番にあった。

それがつらいとか、いやだとか思ったことはないけれど、
考えてみたら、「純粋に自分のためだけに」使った時間や気遣いは
いったいどのくらいあったんだろう・・・。

この病気になって休みをとっている今までの間も
「人に迷惑かけちゃって・・・。」
「家族に何にもしてあげられなくて・・・。」
すまない、申し訳ない、私は邪魔者・・・そんな考えから抜け出せないでいた。

そうか、どうせ今みたいに家で家事もできずにぼーっとしているだけなら、
家族のために何もできないって悩むよりも、
いっそのこと自分がどこか外に出てしまえば良いんだ・・・。

薬に頼るだけじゃなくて、自分で自分を治せるように、
自分が元気になるような事、やれば良いんじゃないか。

だって、そのための療養休暇なんだもの・・・。

お医者さんにもそう言ったら賛成してもらえた。

「うつの人は、気持ちが疲れて体の状態に出てしまっていますが、
体の機能や、頭の働き(知能面)ではなんの障害もないんです。
是非、自分のやりたいことをどんどんやりなさい。」

そこで、今の自分の状態を考えながら
これからできそうなこと、やりたいことを考えた。
(それも、仕事に復帰したらできそうもないことを。)

誰も気にすることのないところでぼーっとしたい。
音楽や英語の勉強をしたい。特に声楽と英会話の勉強を。
海や、川や、自然の中にとけこみたい。
一人になってこれからのことを考えたい。
旅をしてみたい。一人で当てもなくただ気持のむくままに。

まず手始めに、尊敬する音楽の先生に電話をかけた。
「もしもし、先生。声楽のレッスンをお願いできますか?」

「良いですよ、いつでもいらっしゃい。」

「でも私、今こんな状況なので声が出ないかもしれないし、
急に気持ちが落ち込んだらレッスンに行かれなくなるかもしれません。」

「いいじゃないですか。その時の気持ちに任せてやりましょうよ。
私、あなたのレッスンしてみたいって思っていたんですよ、
電話かけてきてくれて嬉しいわ。」

先生は、私の状態を知りながらも屈託も偏見もなくいつもと変わらなかった。
その話し方に、心が洗われた思いで、受話器を置いてから涙が出てきた。

先生のお宅は習志野市。
信州からは遠いそこまで、何とか行ってみせる、と決心した。

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