ピアノのおいしさ、つまみ食い。〜ピアノ・ア・ラ・モードat佐久なんだ館〜<’10年4月掲載>

「面白いことをやるんですよ」

以前、この取材でお世話になったオギタカさんから、そんな声がかかりました。
(オギタカさん取材記事「届け、つながれ。 大地の鼓動・風の歌」)

新しい形の、ライブ。
その名も「ピアノ・ア・ラ・モード」。

……ピアノのアラモードって???
キャッチコピーが、こう。

「ちょっと大人な音楽デザート お好きなアペリティフを召し上がれ」

どうやら、ジャンルの違うピアニスト5人が集まってひとつのライブを構成するらしい。一粒で5度おいしいライブ???

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ピアノ・ア・ラ・モードの企画を考えて主催したのは、坂城に在住のジャズピアニスト、コイケテツヤ氏。

コイケテツヤ氏は、「ブルースピアニスト」としてライブ活動を行っている。
でもこの「ブルースピアノ」というジャンル。あまりメジャーではない。
そのため、コイケ氏は、とにかくいろんなブルースピアニストの演奏を聴き、ほぼ独学でブルースピアノの世界を身につけたそうだ。

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小学校3年ぐらいから中学3年生まで約6年間ピアノを続けました。
そのときは「習わされていた」といった感じです。

高校卒業、就職し、バンドをやっていなかった19歳のあるとき、「ジャケ買い」した一枚のブルースピアニスト「otis spann (オーティス・スパン)」のアルバムが、ブルースにのめり込むきっかけとなりました。

そのアルバムを聞きまくり、一所懸命真似しました。
そのときはブルースしか見えていませんでしたね。
他のジャンルにはまったく興味がありませんでした。

いまから6,7年前から、それまでやった事のなかった歌を歌い始めました。
自分で歌うと、選曲に歌詞の内容を重視するようになり、その頃からだったか、徐々にジャンルへのこだわりはなくなっていきました。

いろいろな音楽に興味がでてきて素直にいろいろな音が私の中に入ってくるようになりました。

(コイケ氏談)
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そんなコイケ氏が、この企画を思いついたきっかけ。
それは、「自分がいろんなピアノに触れてみたい」というところから始まったそうだ。

自らのブルースピアノの世界。それ以外に、ポップス、クラッシック、ジャズ……「ピアノの演奏」とひとことで言ってもいろんなジャンルがある。

そういう人たちの演奏を、いろいろ聞いてみたい。
みんなで一緒にやったら、良いかもしれない。

そんなところから、ピアノつながりで声をかけた人々。
その人たちもみな、コイケ氏のその意図に「乗って」今回の企画が実現した。
ひとり20分の持ち時間。その中で、それぞれのピアノの世界を展開する。
それが、「ピアノ・ア・ラ・モード」。

今回の企画に参加するピアニストの皆さんが東信地区の人が多いので、会場は新幹線佐久平駅近くの「なんだ館」のメインホールになった。

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当日のライブの様子を記述する前に、この「なんだ館」についてもちょっと触れておこうとおもう。

佐久市なんだ館。よ~く見ると、四角じゃない。「五角形」の建物だ。
(外から見るとよくわからないけど、中のホールで天井を見上げるとはっきりわかる)

北海道函館に「五稜郭」があることは、歴史の勉強した人はみんな知っている。けれども、日本にもう一つ「五稜郭」があることはほとんど知られていない。それが、この佐久市の臼田にあるのだ。

この「なんだ館」が五角形なのは、その五稜郭にちなんでいる。「もうひとつの五稜郭」を人の記憶にとどめようとこの「なんだ館」も五角形なのだ。

オーナーの渡辺さんは、そんな佐久の持つ歴史文化遺産に思いをはせ、そしてここから「文化発信」をしたいと考えた。

もともとは御代田でご自身の持つアパートの二階をミニコンサートに解放していたそうだが、きちんとしたホールで……という思いから佐久平駅に近く客の訪れやすいここに新たにオープンさせたのだそうだ。

なんだ館は中央にホール(コンコース)があり、その五角形の各辺からさらに五つのスペースが展開している。
このスペースは、ステージ・三つのテナントブース、喫茶室で構成されている。テナントブースでは、お店で販売、という状態までは手が届かない手作り品を販売できるよう、手作り発信の場として考えられたスペース。

プロ・セミプロの作家さんはもちろん、学校の生徒さんが販売用に作った作品なども、このスペースを活用して展示販売してもらえたら……とシンプルな作りとお手頃な使用料で提供している。
また、手作りサロンとして、申し込めば羊毛フェルトや陶芸などの講座が受けられるスペースもある。

中央のコンコースは最大100脚の椅子が用意されていて、普段は「多目的スペース」としての空間だが、椅子を並べるとあっという間にコンサート会場に早変わり。

ここのピアノはいい音がすると評判で、ピアノ教室の発表会にもよく利用されるらしい。

ホールの後ろにある螺旋階段を上ると、そこはギャラリー席としても活用できるスペース。ピアノの演奏を聴くには、なかなか特等席かもしれない。

そして、ホールの壁面や、ちょっとしたところにはちいさな花が飾られていた。
何とも言えない「手作り感」とぬくもりあるスペース。

立地的にも良い場所だし、こういうはっきりしたコンセプトを持った会場は、もっともっと活用されて根付いて欲しいなぁ、と思った。

(*「なんだ館」お問い合わせは0267-88−5010。詳細はHPをご覧ください。)

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いろいろな方の演奏が聴きたくなり、観たくなり、時間があればライブを観にいきました。次第にいろいろな方々との交流が増え、そんな中、ピアノを使って表現する人が意外と多いことに気がつきました。

同じピアノプレーヤーとして私にはない感覚を持った人がいることがとても新鮮で、
皆さんアーティストとして素晴らしい方々ばかり。

一緒に出来ればすばらしい!

こんなことがきっかけで、今回の企画が浮かんできました。
ジャンルを超えた「ピアノ・ア・ラ・モード」を企画した理由は、一台のピアノが、弾く人の感性で様々な音色に変化して、いろいろな世界が繰り広げられる、すべてが面白くて、興味深いものであって、そんなステージをおみせしたかったからです。

そしてなにより、私自身そんなステージを観たかった!

今回のこの企画を立ち上げたコイケテツヤ氏は、このイベントへの想いをこう語る。

こんなコイケ氏の想いに答える人がいて、それを迎える会場があって、そうして「ピアノ・ア・ラ・モード」は2月の最後の一日に実現した。

開演と共にそれまでは演奏を待つのどかな人々のサロン的な雰囲気だった会場の雰囲気が、一変した。

トップは主催者であるコイケテツヤ氏のブルースピアノ。

黒いピアノに、黒いコイケ氏の出で立ちでステージが一気に引き締まる。
軽やかな音符たちがピアノの上ではね回り、それにつられてからだが自然とリズムをきざみ出す。

この日、ステージにこのあと立つ他の出演者たちも、自分たちの出番以外はお客のひとり。コイケ氏のピアノに合わせて、オギタカ氏が手拍子を鳴らし始めると会場全体がそれに合わせて乗ってくる。

楽しい。カメラをかまえながら、ついリズムに乗ってしまう。

はずんだり、微笑んだり、歌ったり、聴き入ったり。
いろいろな音がステージから降り注いでくるたびに、お客さんの顔が輝いていく。

ひとり持ち時間20分というステージは、あっという間に終了。だけど、コイケ氏のはなった音は、会場の空間に満ちあふれている。もっと聞きたい、だけど、これだけでも満足。それだけこの20分が、濃密だったんだろう。

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続いては、POPピアノの俊智(しゅんち)氏の登場。
山口県生まれの俊智氏は、現在御代田在住。自らが御代田の空気を感じながら得た感覚を音にのせてオリジナルソングを発表している。

御代田の優しい風が、浅間山麓の林を吹き抜けるような染みこむメロディー。
そうかと思うと龍神祭の激しい鼓動。

緩急織り交ぜた俊智氏のオリジナルソングは、御代田の空気を聞くものに正確に届けていく。
佐久で育ったわたしは、龍神祭自体は見たことがないが、そのお寺には父に連れられて行ったことがある。お寺の庭にある池が諏訪湖とつながっていて、諏訪の国の神様として祀られている甲賀三郎が龍の姿となって地上に出てきた際、この池から出てきたという神話がある。
その池の神秘さや、清浄な感じが俊智氏のピアノによって記憶の奥からよみがえってきた。

浅間山を間近に感じる御代田の地に立っている気分になる不思議な20分間だった。

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続いてはクラッシックピアノの細井美来氏。
細井氏は4才からピアノを始め、現在は軽井沢で演奏活動と後進指導に当たっている。

出だしが「トロイメライ」。
個人的に、この曲にはちょっとした思い出があって、さらにその思い出に重なる細井氏の音がとてもやわらかく優しくて、思わずこみ上げそうなものをこらえた。

男性二人の骨太な演奏のあとで、女性らしい繊細な演奏が対照的で、そして聴かせる。
2曲目のショパンの「ノクターン第2番」では、ラストの細かい音符のきらめきが、ひとつひとつ明瞭に際だちながら鮮やかに奏でられ、一音も逃したくない気持ちになって細井氏の音に引き込まれてしまった。

最後の音が消えたその瞬間の余韻までも楽しむことが出来、ため息がでてしまった。

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休憩のティーブレイク終了後、オギタカ氏のステージ。

オギタカ氏の演奏はいつもながらにパワフルで、いつ聴いても元気になる。
20分という時間のせいか、最初からガンガンに飛ばしていくのであっという間に会場はハイテンションに盛り上がっていく。

そして、なんと、オギタカ氏のピアノにコイケ氏が参加してピアノのデュオを披露。

この二人の息のあった演奏は、どんどん熱を帯びて盛り上がる。
何よりも二人ともとても楽しそうで、二人の奏でる音が絡み合い、支え合い、刺激しあって新しい音が生まれていく様が何とも「Happy」なのだ。

今この場で生まれた音、この瞬間しか聴くことの出来ない音。
生き生きとした音の固まりがぶつかってくる感じが何とも嬉しい。

デュオのあとはオギタカ氏がしっとりと歌い込んでステージをしめる。

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ラストに登場したのがジャズピアノの武藤さとみ氏。

軽井沢町在住の武藤氏は、プロとして数多くのセッションに参加している実力派。
初っ端になんか聴いたことのあるメロディーだと思ったら、ブルグミュラーの練習曲。ピアノを習ったことのある人だったら多分みんなやったことがある曲。
それが、だんだんジャズ風に姿が変わっていって。「こんな曲あったよねぇ。」って思うようなジャズ曲に変身。

すごいなぁ。さすがだ。

それに、武藤氏オリジナルアレンジの曲が何曲か。
軽井沢の情景をイメージしたもので、から松林や軽井沢の乾いてちょっと涼しげな風を感じさせる曲。

軽井沢は、冬は厳しい気候のあとの芽吹きの新緑の喜びがひとしおな土地。そんな軽井沢の自然を見つめる武藤氏の感覚が、お母さんのような優しさと包容力を持って静かに流れ込んできた。

最後に、武藤氏のMCと笑顔でステージ終了……。
かと思ったら、今日の演奏者がステージに集結。なんと、アンコールでSMAPの「トライアングル」を全員で演奏。

歌詞にあるように、みんなの声(音)は異なっているけど、
表現方法も、ジャンルも、まったく異なっているけれど、
「音を愛する人たち」の想いは、生命は、ここでひとつに結びついた。

ステージの上の5名も、それを受け止めた観客も。
みなそういうひとつの想いの中に過ごした2時間あまりをかみしめたラストステージだったように思う。

もともと、人がその想いを伝えるひとつの手段として生まれたのが「音」。
人をつなぐために、喜びや悲しみを伝えるために、人とそういう想いを分かち合うために、様々な音が生まれてきた。

音楽に国境はない。

言語も、人種も、歴史も、伝統も。

「クラシック」とか「ポップス」とか。
そんなジャンルも関係ない。

そんなものはくそくらえで、その本来の「音」の持つ意味をもっともっと自由に感じとっていってもいいよねぇ。

それでこそ、「音楽」……音を楽しむこと、なんだから。

「来年もまた、やろうね」

打ち上げの時に、5人が笑顔でそう語っていた。
こんな風に、音楽の本来の楽しさをどんどん伝えてくれるステージが広まっていったらいい。この試みが、この先もさらにひろがって続いていったらいい。

そんなワクワクするビジョンが、どんどん湧き上がってきたステキなステージだった。

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【コイケ氏ブログ】  ライブ情報やまとめなどの情報がアップされるのはこちら。

コイケテツヤノオモウコト

【コイケ氏の今後の活動予定】←記事掲載’10年4月現在のもの。最新情報はコイケ氏のブログでご確認ください。

4月24日(土)
長野市「はくな・またた
オープン/19:00 スタート/20:00
チャージ/\1,000(1ドリンク付)

出演/
魂のギターデュオ
コイケテツヤ
こんこば

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5月22日(土)
「SUPER JAM NIGHT vol.2」
長野市 LIVE HOUSE J
オープン/17:30 スタート/18:00
\1,500(1ドリンク付)

出演/
SOUL BEAT(ソウルビート)
DEEP SOUTH GROOVE(ディープサウスグルーブ)
BEVA,SOUL BROTHERS(ビバ、ソウルブラザース)
BOOGIE WOOGIE SHACK(ブギウギシャック)Vo.:コイケ氏
飯山ガキデカJAG STOMPERS(イイヤマガキデカジャグストンパーズ)

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コイケ氏は、音楽活動のかたわら、腹膜偽粘液種(ふくまくぎねんえきしゅ)という疾患を難病として特定疾患に認定するための署名活動も行っています。
詳しくは、コイケ氏のブログ記事「腹膜偽粘液腫に関する署名のお願い」をお読みください。

(写真・文:駒村みどり)

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