2-3フォーラム南信州「祭の流儀」

かつて人は、様々な感謝や、祈りを捧げる一つの形として「祭」を行っていました。それは豊かな恵みや労働に、人々が生かされていることに、自然との共存を願って、厄や難を避けるために……など理由や形には様々ありますが、「より良く生きる」「豊かに生きる」ことをイメージしたときに生まれる祈りや感謝という想いを形にしたものが舞いや音楽。そしてそれを奉納するのが祭です。

南信州には、山あいとそこに住む人々に守られて、いまだにこの祭がしっかりと中身を伴って多数残っているのです。伝統だから、決まりだから、という形を維持するためではなく、人々の「より良い生き方」への想いと情熱によって今の時代に力強く受け継がれてきているものがたくさんあるのです。

この祭の中に、今の時代をよみがえらせるためのヒントがないだろうか。形だけのものに心を取り戻すためのヒントがないだろうか……。そういうテーマで取り組んだのがこのフォーラム南信州「祭の流儀」でした。

2回のフォーラムと、まとめの会。それから各地の祭の現地調査とそこで出会った人々。一年を通じて頻繁に飯田に通い、南信州の空気や土地柄を直に肌に感じながらこの事業を進めていく中で見えてきたもの。

それは、その土地土地にはそれぞれ持っている気風=地脈というものがあり、その上に成り立った生活や文化は人が生きる上で本当に必要な「命のエキス」のようなものだ、ということ。それを忘れたり捨て去ったりした土地とその人々がたどるのは衰退。けれどその地脈をきちんと感じとり、それを生かした生活の上に成り立っているところは細くても小さくてもちゃんと命のリレーが出来るのだ、ということ。

過疎化。高齢化。こういった現代社会の波は確実にこの独立状態の南信州にも押し寄せています。死んだ畑や田んぼもたくさんありますし、シャッターがおりた店が目立つのも確かです。でも、地脈を感じている土地の人々の表情は明るいのです。前向きなのです。形にはめられず、踊らされず、心を守ろうとする強さと情熱が消えていないからです。

東京の雑踏の中で、ものすごくたくさんの人の波の中で立っているときには感じられない人や大地の放つ「気」というものが、「祭」という一つのイメージの形から強烈に伝わってきたのです。

これなんだ。これが必要なんだ。「今」に欠けているもの、「今」が見失ってしまったものはこれなんだ。

それを色濃く残している南信州の土地と、そこの人々からもまた、「まだいける、まだ大丈夫」という力をもらい、一年間の事業からたくさんの「前へ進むためのイメージ」の材料を受け取ったのでした。

*フォーラム南信州「祭の流儀」 (H20年度文化庁事業)の概要とまとめはこちらでご覧下さい。

霜月祭

Photo : Midori Komamura

3 フォーラム南信州「祭の流儀」 (文化庁事業)

同じく2008年。文化庁・平成20年度「文化芸術による創造のまち」支援事業として宮内氏と取り組んだもう一つの企画。それが「フォーラム南信州“祭の流儀”」でした。

飯田・伊那を中心とする南信州という土地は、どちらかというと同じ県というよりも「独立した場所」という感覚が強いところです。諏訪湖から流れ出す天竜川が削り取った山と山に囲まれた谷と河岸段丘に細長く拡がった町。

今でこそ長野から名古屋に抜ける高速道路が通っているものの、それ以前は飯田線が外部につながる唯一の長距離交通網であり、さらに飯田線はローカル線であるので時間はかかるし本数は少ないし、東京に行くのにはいったん辰野まで北上せねばならないし、県庁所在地である長野に行くにはなんと半日以上の時間を要するといった有様でした。

県内のニュース、ということで南信濃の土地名が出てきても、そこがいったいどこにあるのかすぐに思い浮かべることの出来る人間はたぶん少ないでしょう。

そうでなくても南北に長い長野県。長野から高速道を利用して飯田に行くのと関東圏(埼玉あたり)に行くのと、ほぼ距離的には同じで、一方南信州からは県庁のある長野に行くよりも高速を使って名古屋に行く方が早い……とイメージするといかに南信濃という土地が長野県の中で「独立状態」にあるのかは伝わるでしょうか。

けれどそれは今の状態。かつて都が京にあった時代の南信州は信州の玄関口に当たる場所。

今でこそ長野県は高速道路や新幹線でだいぶ開かれたもののそれはまだ歴史に浅いことであって、「陸の孤島」と呼ばれていた時代、南信州は実は「文化の入口」であり「最先端」の土地であったのです。

今では交通網の関係でかなり取り残された感がある南信州ですが、もっと歴史をさかのぼるとそこにはかなり磨かれた文化が根付いていて、「独立状態」になってその独自の文化は逆に、いわゆる高度成長期の急激な変化の波をかぶることなく守られるかたちになりました。

「急成長」という呼び声のもと、日本各地ではその波に乗った人々によって古くからの伝統や決まりが形骸化していってしまったのに比べ、南信州のそれはきちんと「中身」=精神・意義・経験を伴ったものとして受け継がれて来ていたのです。その一つの形が「祭」でした。

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Photo : Midori Komamura

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駒村みどり
【すまいるコーディネーター】

音楽活動(指導・演奏)、カウンセリングや学習指導、うつ病や不登校についての理解を深める活動、長野県の地域おこし・文化・アート活動の取材などを軸に、人の心を大切にし人と人とを繋ぎ拡げる活動を展開中。

信州あそびの学園 代表

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WebマガジンNgene特派員
(長野県の文化、教育、地域活性化などに関わる活動・人の取材)
【羅針盤】プロジェクトリーダー。

詳細は【PRPFILE】駒村みどりに記載。

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