実は、このオーディオバイオグラフィー【羅針盤】は、単なる一問一答式のインタビューではありません。
N-ex Talking Overや文化庁の事業を通じて目にした多くの可能性と、山のような課題。
それを目の当たりにしてきた宮内氏が自らの中にある問題意識を持って、その「可能性」を導くためのアイディアと課題を乗り越えるためのアイディアとを六名の人々から引き出していく「対論」。
つまり、宮内氏と向かい合う各氏、二人の会話の中からお互いの持っている経験や想い、アイディア、そういったものがぶつかり合い、絡み合ってどんどん拡がっていくものなのです。いわばTalking Overの根本の「立場や想いの異なる人たちの自由な討論」を基盤に置いたものなのです。
この「対論」形式による音声収録は、ものすごく面白い効果をもたらしてくれました。
この六名の皆さんは、長野県の中でも「よく知られた」存在。様々な講演会やインタビュー記事に登場することも多い方々です。収録当日にお会いするときにはそこからのイメージがあって、どちらかというと「雲の上の人々」という感覚で対するのですが、それはお会いした最初のうちだけ。
宮内氏との対論が進む上で、次第にその「人間味」のある部分がどんどん引っ張り出されてくるのです。いわば「よそ行き顔」で登場した各氏の表情が、まるで少年のようにきらきらしてくるのです。そうしてはずむ会話のやりとりの高揚感が、その場にいる私にも手にとるように伝わってきました。
それは、その場にいた私だけのものではなかったようです。
たとえば、この音声を編集して収録したCDの試作品を聞いた星野リゾートの広報担当の方から「お二人の話がどんどん盛り上がっていって、そのスピード感が楽しかったです。まるでジェットコースターに乗っているみたいな感じでした。」という言葉をいただきましたが、星野氏の日頃の語りとは何か違った感覚がこの対論から感じられたのでしょう。
対面する前は雲の上の存在だったこの「成功した人々」が、なぜ成功したのか……その答えがこの対論の中で見えてきたような気がしました。
ここで対論を交わした人々は何か特別なことができるわけでも、スーパーマンでも、仙人でもありませんでした。「観光カリスマ」といわれている星野氏も、「小布施町並み作り」が全国から注目されるところまで高めた市村氏も。この対論の中では肩肘張った“すごい人”というよりも、どちらかというと気さくな人々でした。
なぜ、この気さくな人たちが「やり遂げる」ことが出来たのか……。
何かをやり遂げるのは、特別な技術や才能が必要なわけではないのです。自分の身のまわりにあることをきちんと受けとめて、当たり前のことを当たり前と流さず、自分の持っているビジョンや信念としっかり絡めてより確実でしっかりした「イメージ」を持ち、それを人々にわかる形で、伝わる形で、表現することができる人々……。
つまり、「当たり前のことを、イメージに沿った信念を持ってあきらめずやり遂げる人々」だったのです。