4-2「イメージ」は自ら学ぶ気持ちを育てる。

学校ではテストのあとに、答えを言ってやり方を一斉指導したらそれで終わりです。それ以上の指導の時間がないからどんどん次の勉強に進みます。だから、出来ない問題を見直すことすら子ども達はしないことが多いのです。×になった問題は、1か2かも見分けのつかないままに「だめだった問題」として子どもの劣等感を増幅する原因になってしまうだけです。

ある程度自分で学び、自分でわかる「成績優秀な子」は、この見直しを自分でして、欠点を修正することも出来るのでしょうが、自分でそんな事が出来る子はほんの一握りなのです。

ですから、それを大人が一緒にやって上げるのです。
「あ……この問題、ここが惜しかったね!」
「あれ?マイナスがここ、落ちてるじゃん!」
「ここ、内容はあっているのにね〜。漢字で×されちゃってもったいないなぁ〜。」
そう言いながら、一緒に「なぜ間違えたのか」を見直し、「わかっていたのに間違えた」問題には、みんな◯をしていく。

……そうすると、多分、ほとんどの子どもは「うっかりミス」による減点が20点ほどもあるんです。

その「うっかりミス(わかっていたのに間違えた)」による減点を、本来点に足してやる。
つまり、子ども達に「実力点」を出して見せてあげるのです。

すると……
「え〜〜〜〜〜!、自分は、こんなにできたの?こんな点、とれるの?」
たいていの子はそう叫んで、目の色が変わってきます。

一例を挙げましょう。
Aちゃんは、家庭教師で教えているときは、とても出来がいいお子さんでした。
平均80とってもおかしくない力を持っているのですが……実際は平均60〜70の得点なのです。
教え始めてから最初のテストも、「これなら平均75は行くだろう」と思っていたのに、ふたをあけたら60点。

なんでだろうなぁ?
そう思って、一緒に見直しをしながら話をしました。
まず、見直しをしてテストの後半になると得点が落ちることに気が付きました。
「なんで?時間がなくなるの?」
「ううん、あのね、テストの後半になると、ものすごく眠くなっちゃうの。」
……そうか、後半になると集中力が切れちゃうんだ。

「そっか……でも、テストで必死になっているのに眠くなるって珍しいよなぁ。」
「う〜ん、なんか、自分は数学とか全然だめって思っているから……問題見るだけで眠くなるの。」

Aちゃんは、決して「だめ」じゃないんですが、妙に自己肯定感が低い子でした。その理由もよくわからなかったのですが……次の言葉でその理由がわかりました。

「テスト帰ってくるとね、ものすごく怒られるの、出来が悪いから。だから、お母さんに見つからないように隠しておくんだけど……。」

そっか。
この子は、点数でいつも判断されちゃっているんだ。
だから、「悪い点を取ること」に対しての恐怖感と緊張感が、逆暗示をかけちゃっているんだ。

お家の人の「何、この点?もっと頑張りなさい!」という気合いは……実は、いかに多くの子ども達に「自分は出来が悪いだめな子なんだ」という悪い暗示を掛けるキーワードになっていることに気が付いていない親御さんがとても多いのです。この言葉は、「悪いイメージ」を子ども達の中に植え付けていて、子ども達に意欲を持たせるどころか、ダメ人間だと教え込んでいるようなものなのです。

なんと、その子の数学のうっかりミスは「45点」もありました。
そうして出してあげた実力点は100点に近いのです。
その点を見た途端に、それまであきらめから失われていた目の輝きがぱっと戻り、表情の明るくなったその子はこう叫びました。

「え〜〜〜、なに、私、こんなに出来るんだ!やだ、もう一度テストやり直したい!」

「実力点」によって、「自分がここまで出来るんだ」というイメージを持つことの出来た子は、そこで自己評価を改めるのです。親や学校から与えられた「点数が悪いから出来が悪い」というイメージを払拭することが出来るのです。

そうしてその「実力点」に近づける努力をはじめます。自分に対しての悪いイメージを良いイメージに切り替えることで、「より良いイメージを目指せる可能性」を子ども達は得ることが出来るのです。

良いイメージを持ち、よりよい自分への目標が持てるようになればあとはそれをめざすために努力しはじめます。だって、お家の人に怒られているだけの自分よりも、そっちの方が誰だって嬉しいじゃないですか……。誰だって、怒られるよりも誉められたい。認められたいのです。わけわからないけど頑張って来たのに、わけわからないから出来なかった。けれど、「うっかりミス」に気をつければもっと出来るんだ、とわかり、そのイメージを持つことが出来たら、そこに向かう気持ちが当然わいてくるのです。

テストの点を見て怒る前に。
お家の方はどうか、その「中身」を見てあげてください。
ご自分のお子さんたちの「実力」を見てあげてください。

たったそれだけで、その「実力」を感じて励ますことで、お子さんたちは「よりよい自分」に向かうエネルギーを受け取ることが出来るはずなのです。多分、ただ叱っているより親も子どももよっぽど気持ちがいいはずだと言うことは、容易に「イメージ」できることだと思います。

「結果点」ではなく「実力点」で子ども達を見てあげてください。
それだけで、絶対に子ども達は変わってきます。

そしてそれは、テストのみならず、生きていくさまざまな場面で必要なことなのだと思います。

虹

Photo:Midori Komamura

shock

Photo:Midori Komamura

「しまった!」……何か失敗をしたとき、まず頭に浮かぶのは……

1*失敗をつくろう(もしくはごまかす)ためのいいわけ
2*この先に対しての不安や危機感
3*フォローの方法
4*失敗の原因さがし
5*現実逃避
6*真っ白になって何も考えられない
7*決定的失敗とわかるまでギリギリ何とかしようと考える
8*過去の失敗の苦い思い出
9*その他(何かユニークな解答があったら教えてください)

………さぁ、あなたはどれでしょうか?

無論、その失敗の質や量によっても違うでしょうが、いずれの解答にせよ、すべてに「イメージ」が作用していることはおわかりだと思います。

こういう「とっさの時」に働くイメージが貧困だと、5や6のパターンになってその先に進めなくなる状態が起きます。過去に失敗で痛い目にあったりトラウマになっていたりすると、そこには「悪いイメージ」が大きく作用しますから2や8……また、そこから逃げようと1になってしまうことになるでしょう。4になると、この失敗を突き詰めて新しいイメージへ結びつける材料探しという少し前向きのイメージの働きになり、それがさらに進むと3の「フォローして挽回」に向かうプラス思考のイメージになります。7の場合には同じ状態を「失敗」というイメージでは捉えていません。場合によっては、その状態を逆手にとってしまうことも可能かもしれません。

さて、あなたはこれを見た時に、「自分はどうありたい」と思いましたか?

……かつての私は、6番のタイプでした。
あ、しまった!そう思った瞬間に、頭が真っ白になって固まってしまいました。ピアノの発表会などでは、ステージに登る前から「失敗したらどうしよう」「間違えるかもしれない」と……マイナスのイメージにとらわれて、実際にステージに登ってその通りの状態にはまってしまうことが多々ありました。つまり、失敗する前にすでに「失敗のイメージ」に支配されてしまっていたのです。

自分のマイナスのイメージに支配される状態がわかったとき……「失敗の原因」がその前の「失敗のイメージ」にあることがわかってみると、失敗したくないときほどこの「失敗のイメージ」が大きくなってくることに気が付きました。どうでもいい、結果を気にしないことだとうまくいくのです。いつも通りにだと出来るのは、普段は失敗も成功も気にしないでいるからです。

この状態は、子ども達の「テスト」の時にも大きく現れてきます。
たいていの子どもはテストの前にものすごく緊張します。それは、その結果が「自分の将来」に影響するというイメージがインプットされていること、それからその点数の善し悪しでお父さんお母さんの態度が変わることを経験してきているので、「悪い点は許されない」という危機感に襲われること……などが理由です。

実際にテストに向かうと、そういう緊張感から勉強したはずのことがどこかに消えてなくなってしまったり、日頃は出来ていた計算をミスしたり……という「失敗」が起こり、結果、「思うような成績にならなかった」ことによってまたまた学校の先生やお家の人から「もっと頑張りなさい」と注意されます。

その「悪いイメージのループ」によって、子ども達は「自分は頭が悪い」というイメージを持ち、「テストは出来ない」という暗示にかかっていってしまうのです。

実際、私が家庭教師として指導に当たるお子さんのうちのほとんどは、この「親の叱咤激励」と「親の不安」から家庭教師を……と望まれてつくのですが、そういうお子さんはまた、ほとんどが「自分は勉強がだめ」というマイナスのイメージにとらわれているのです。

実際に一緒に勉強をはじめると、本当に「だめ」な子はほとんどいません。
計算がまったく出来ないわけではなく、英語の教科書をまったく読めないわけでもありません。むしろ、「このくらい出来ているのに、なんでこの点?」と思うお子さんがとても多いのです。

そういうお子さんたちを伸ばすのにやること。
それは「実力点」を出してやることです。

1,本当にまったくわからなくて出来なかった問題。
2,ちょっとしたミスで書き損なってしまっただけの問題。

1については、家庭教師でしっかりやり方や考え方を教えます。けれど2の方は……本来は出来たはずの「わかっている」問題。無論テスト終了後に「これ、わかってました」と言われても先生も困ってしまうけど……。

ちょっとした計算間違いや漢字のミス。記述上の問題……やり方がわかっているにもかかわらず、そういうものによる「減点」は意外と大きいものです。

(2に続く)

つまり、「よい成績」のために必要な「正しい活用」のところで「なぜ」がわかっていないとつまずいてしまうのです。これは、公式を丸暗記することでは無理なのです。いくら「教科書の公式をちゃんと覚えてきなさい」といっても、その「なぜ」の部分をイメージできないと応用の問題は決して解けるようにはならないのです。

速さとは。「ある単位時間に進む距離」のことです。
時速とは、1時間に進む距離のこと。分速、秒速、すべて同じ考え方になります。
「速さはどのくらいでしょう」という問いは、「この進み方だと1時間にどこまで行くことができますか」という問いなのです。だから2時間で5キロ進めるのだったらそれを半分にすればいいのです。

こういう文章問題を解くときに、「図や表に書いてみなさい」という指導はよくなされることです。けれど、この「図や表に書く」という指導をする前に、「なぜそうなるのか」がわかっていないと図も表も書けないのです。つまり「イメージ」が出来ないので、そのイメージの表出である図も表も書けるようにはならないのです。

今、中学生の学習指導をしていて強く感じるのがこの「なぜ」がちゃんとわかっていないと言うことなのです。計算はちゃんと出来る生徒なのに、文章問題がわからないから成績のなかなか上がらない生徒が結構います。問題文を読んでそれを「理解」し、「表や図に表現」することができず、その段階でつまずいている生徒がとても多いのです……。

それらの生徒のつまずきの根本にあるものは何か……といったら「その言葉が何を表しているのか」「なぜ、そういう計算式が成り立つのか」という本当に基本的な「イメージ力の欠如」。

それが小学生の低学年から培われていたら、今こんなにつまずくことがないのに……と見ていてものすごく残念に思います。高校入試を目前にして出会った中学生たちに、この「イメージと現実を結びつける力」……本来小学生で養って育ててくるべき力を、そこからつけるのはものすごく困難なことなので……。

けれど、「イメージできること」が「わかった」という感覚といったん結びついたら。
そこから先、学ぶことは面白くなります。そして自ら学ぶ気持ちが育ってくるのです。

「そうなんだ!そういうことなんだ!」……「なぜ」が見えると、子供たちはそう叫んでぱっと表情が明るくなります。

「なぜ」ということをイメージできるようになったら、「勉強しなさい」といわなくても自分から学べる子供になります。それはすぐには「点数」には結びつかないかもしれないが、そこから先「一生が学び」である人生において、子供たちには大きな力になり、宝物になることでしょう。

では、現実問題に立ち返ってみます。目の前にはもう高校を目前にした「イメージ力を養ってこなかった」中学生がいます。その子たちをどうしたらいいのか、どうしたら効果的に少しでも「出来る喜び」に近づけるのか……。

そこをここからあと、実際の例を元に記述していこうと思います。

学習

Photo:Midori Komamura

2「イメージ」は自ら学ぶ気持ちを育てる。
(1)「なぜ?→【イメージ】→そうか、わかった!

入学おめでとう

Photo:Midori Komamura

小学校に入学して、最初に教科書をもらいます。子ども達が最高ににこにこワクワクする瞬間です。
その教科書を開くと、一年生はまだ「ひらがなが読める」という状態ではないのが前提なので、言葉を書いていないのは当然なのですが、絵や写真の多さには驚きます。絵本でさえももう少し、文字が書いてあるのに……。

なぜ、絵や写真が多いのかと言ったらこれは「イメージを助けるため」なのです。

当然ながら、学校にはいろいろな経験値を持つ子供たちが集まってきています。だから、その「共通理解」を計るためには同じものを見てその経験値の差を補う説明をする必要性が出てくるのです。
そのための「絵」や「写真」。だから、同じ絵を見て、同じ資料の写真を見て、子供たちはそこから自らのイメージと「知識」とを重ね合わせる学びをはじめるのです。

低学年の教科書においてはこの「イメージ」を助ける教材が教科書に多用されています。しかし学年が上がるほどに、この「イメージ補助」の部分が削られていってしまうのです。算数の教科書でも、「言葉による説明」が増えてきて、「絵による解説」がどんどん減っていきます。それは「イメージする力がそこまで出来上がっている」という前提に基づいているからなのでしょう。

では、実際はどうかというと、低学年から「イメージ」と「教材」とを結びつける指導について「なぜそうなるのか」という「なぜ」の部分はじっくり指導している時間はなかなかありません。どちらかというと「この現象はこうなる」という、「なぜ」の部分を省かれたところの指導に時間をかけることになってしまいます。
(これについては、文科省の学習指導要領の記述も大いに関係することと思われますので、どこかで記述したいと思います。)

エジソンは「なぜ」を多発する子供だったから学校からはみ出した、という逸話を持つのですが、それは実はエジソンに限ったことではないのです。「なぜ」の部分は物事にとって一番重要な「真実」なのですが、指導の上では省略されてしまい、「これはこうなる」の部分をくり返しで覚え、「なぜ」は最初の導入の時に軽く触れる程度で終わりなので、そのあとは「これはこうなる」という法則や原則や公式をただ形のみ繰り返すだけになってしまうのです。

たとえば、子供たちがよくつまずく「速度の計算」。
速さは距離÷時間。テストで求められるのはこの計算式で、これを正しく覚え、正しく計算し、正しく活用できればOKなのです。

けれども、つまずく子供たちはこの「意味」が理解できないから頭に入らないのです。「なぜそうなるのか」の部分がちゃんと理解できない、「速さ」という言葉の意味自体もわからない。そこをちゃんと理解させることが出来たのだったら、様々な応用問題にも対応できるはずなのですが……。

(2につづく)

Photo:Midori Komamura

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PROFILE

駒村みどり
【すまいるコーディネーター】

音楽活動(指導・演奏)、カウンセリングや学習指導、うつ病や不登校についての理解を深める活動、長野県の地域おこし・文化・アート活動の取材などを軸に、人の心を大切にし人と人とを繋ぎ拡げる活動を展開中。

信州あそびの学園 代表

Twitter:komacafe 
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  信州あそびの学園

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     信州あそびの学園
笑顔をつなぐスマイルコーディネーター

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WebマガジンNgene特派員
(長野県の文化、教育、地域活性化などに関わる活動・人の取材)
【羅針盤】プロジェクトリーダー。

詳細は【PRPFILE】駒村みどりに記載。

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