2010年 12月 29日

6 「イメージ」を実りに変える魔法 ~【羅針盤】の人々〜

「おいしいのは、おそばです」

このひとことは、善光寺を代表するお土産、七味の八幡屋礒五郎のCM。どんなに七味として人気が出ようとも、お土産として知名度が上がろうとも。あくまでも七味唐辛子は「薬味」であって、メインのごちそうではないのです。(そういいつつもちゃっかり存在アピールしていますが。)

それを表現したCMの一番最後に流れるのがこのコピー。もう一つのCMでは、他の調味料がどんどん人の手にとられていくのに、なぜか誰も使わない「七味」がクローズアップされて、「使われない日もあります」のひとこと。

……秀逸ですよね。

このCMが流れるようになったのは、【羅針盤】に登場した室賀豊氏が八幡屋礒五郎を背負って立つようになってのことでした。長野オリンピック、善光寺の御開帳。この10年前後に長野市をメインに繰り広げられた2大イベントで「お土産」としての知名度をさらに上げたばかりでなく、悲喜こもごもの観光業界の中でも八幡屋礒五郎の躍進は、端から見ても明白でした。

けれど、そうして八幡屋礒五郎の知名度がいくら上がっても、室賀豊氏自身は表舞台にはめったに登場しない。そう、「おいしいのは、おそばです」……七味はあくまでも引き立て役です……がまるで自分自身のそんな姿を表現しているように。

実際、この対論の収録におじゃました室賀氏の第一印象は「無口で物静か」。ここまで八幡屋礒五郎を躍進させた「やり手」のイメージとは正反対でした。創業280年という重いのれんを背負いながら、それをさらに躍進させるだけの力がどこから来ているのだろう?そう思いながら宮内氏との対論を聞いていました。すると、話が進んでいくうちに最初の印象とは違った室賀氏の表情がどんどん引き出されてきたのです。

室賀氏の持っているテーマのひとつが「面白いこと」。
どうせやるのだったら面白いことを……というコンセプトに基づいて様々な取り組みをしてきていた室賀氏。音楽缶。キットカットとのコラボ商品。

それからもう一つ、「あまり大きな声では言えませんが」と教えてくれたのが「脱・善光寺」。
善光寺のお土産物、という印象の強い八幡屋礒五郎が脱・善光寺って?と思うでしょうが、そのひとつの表現が「おいしいのは、おそばです」「使われない日もあります」のCMだったそうです。

室賀氏のあり方は、正直いって今までの流れからしたらかなり「奇抜」で「はみ出した」部分があるように思います。けれど、それがなぜ単なる「奇策」に終わらなかったのか……それは室賀氏の持っている絶妙なバランス感覚のなせる技。その根っこにあるのはやはり280年という歴史の重みと意味をきちっと踏まえた上での「面白さの追求」だったからなのです。

「どうせやるなら面白いことを。でも、面白いだけではダメ。」その目指す面白さの中には、単なる笑いをとるだけとか、その場の思いつき、という薄っぺらいものではない。そのアイディアに重みを加えているのが、子供のころからずっと身近に感じてきた280年の歴史によって積み上げられてきたものたちの実績とそこに心砕いてきた先達の温もりのなのです。

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Photo : Midori Komamura

実は、このオーディオバイオグラフィー【羅針盤】は、単なる一問一答式のインタビューではありません。

N-ex Talking Overや文化庁の事業を通じて目にした多くの可能性と、山のような課題。

それを目の当たりにしてきた宮内氏が自らの中にある問題意識を持って、その「可能性」を導くためのアイディアと課題を乗り越えるためのアイディアとを六名の人々から引き出していく「対論」。

つまり、宮内氏と向かい合う各氏、二人の会話の中からお互いの持っている経験や想い、アイディア、そういったものがぶつかり合い、絡み合ってどんどん拡がっていくものなのです。いわばTalking Overの根本の「立場や想いの異なる人たちの自由な討論」を基盤に置いたものなのです。

この「対論」形式による音声収録は、ものすごく面白い効果をもたらしてくれました。

この六名の皆さんは、長野県の中でも「よく知られた」存在。様々な講演会やインタビュー記事に登場することも多い方々です。収録当日にお会いするときにはそこからのイメージがあって、どちらかというと「雲の上の人々」という感覚で対するのですが、それはお会いした最初のうちだけ。

宮内氏との対論が進む上で、次第にその「人間味」のある部分がどんどん引っ張り出されてくるのです。いわば「よそ行き顔」で登場した各氏の表情が、まるで少年のようにきらきらしてくるのです。そうしてはずむ会話のやりとりの高揚感が、その場にいる私にも手にとるように伝わってきました。

それは、その場にいた私だけのものではなかったようです。

たとえば、この音声を編集して収録したCDの試作品を聞いた星野リゾートの広報担当の方から「お二人の話がどんどん盛り上がっていって、そのスピード感が楽しかったです。まるでジェットコースターに乗っているみたいな感じでした。」という言葉をいただきましたが、星野氏の日頃の語りとは何か違った感覚がこの対論から感じられたのでしょう。

対面する前は雲の上の存在だったこの「成功した人々」が、なぜ成功したのか……その答えがこの対論の中で見えてきたような気がしました。

ここで対論を交わした人々は何か特別なことができるわけでも、スーパーマンでも、仙人でもありませんでした。「観光カリスマ」といわれている星野氏も、「小布施町並み作り」が全国から注目されるところまで高めた市村氏も。この対論の中では肩肘張った“すごい人”というよりも、どちらかというと気さくな人々でした。

なぜ、この気さくな人たちが「やり遂げる」ことが出来たのか……。

何かをやり遂げるのは、特別な技術や才能が必要なわけではないのです。自分の身のまわりにあることをきちんと受けとめて、当たり前のことを当たり前と流さず、自分の持っているビジョンや信念としっかり絡めてより確実でしっかりした「イメージ」を持ち、それを人々にわかる形で、伝わる形で、表現することができる人々……。

つまり、「当たり前のことを、イメージに沿った信念を持ってあきらめずやり遂げる人々」だったのです。

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Photo : Midori Komamura

目次

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PROFILE

駒村みどり
【すまいるコーディネーター】

音楽活動(指導・演奏)、カウンセリングや学習指導、うつ病や不登校についての理解を深める活動、長野県の地域おこし・文化・アート活動の取材などを軸に、人の心を大切にし人と人とを繋ぎ拡げる活動を展開中。

信州あそびの学園 代表

Twitter:komacafe 
HP:コマちゃんのティールーム
  信州あそびの学園

facebook:Midori Komamura
     信州あそびの学園
笑顔をつなぐスマイルコーディネーター

アメブロ:【うつのくれた贈り物】


WebマガジンNgene特派員
(長野県の文化、教育、地域活性化などに関わる活動・人の取材)
【羅針盤】プロジェクトリーダー。

詳細は【PRPFILE】駒村みどりに記載。

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