INTERMEZZO14-3 被災地をめぐっての3日間~2郡山(福島移動保育プロジェクト)

今回のブログは、書くことにものすごく配慮せねばならない。
「フクシマ」の被害は明らかに他県とは違うからだ。

津波被害、地震被害、これらのものは目に見える。だから情報が無くても目で確認することはできる。
しかし、フクシマが背負っている被害にはこれらにくわえて「放射能」という目に見えない敵がいる。目に見えないものはわからない。わからないから恐ろしい。……それは、人が根本的に持っている恐怖心を煽るものであるからなおのこと根が深い。それが「風評被害」にもつながっていく。

たとえば、病気にたとえると骨折のような怪我や風邪ひきのように視覚的に感じられる病気は理解しやすい。けれど、うつ病のような精神的なものや、内臓の疾病のような外から見えないものは見つかりにくいしわかりにくい。そして自分も他人も理解しにくいから治りにくいし治しにくい。治療方法についても、専門家でないとわからない部分があるので手の施しようがない。……それが、今回のフクシマの陥っている状況なのではないのだろうか。

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9月11日。
この日朝、水戸を出発して常磐道を北上しました。
この日の第一目的地は福島県の郡山。

最初の計画では、常磐道をできるだけ北上して海岸沿いを宮城まで……と思ったけれど、原発の影響で立ち入り禁止になっている区間があります。どこまでかを調べてみたら広野インター以北とのこと。そこまで無理して入り込む必要は今回はないし、仙台近辺の状況をよく見るためにもルートは常磐道から磐越に入って東北道を北上するルートに決めました。

参考までに。
水戸ー郡山2

その折に福島の郡山近辺を通ります。そこでFacebookで知った「福島移動保育プロジェクト」の活動に取り組んでいる上國料竜太さんが、郡山で活動していらっしゃるので、上國料さんにお会いしてお話を聞くことにしたのです。

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福島移動保育プロジェクト」とは、毎日放射能の汚染におびえて深呼吸もできない子ども達に深呼吸できる時間を!というコンセプトのもとに、放射線量の少ない地域に乳幼児~小学生を連れて行って保育する試みです。

あの原発の問題以来、ここ郡山近辺でも外で遊ぶ子ども達の声が消えたそうです。
上國料さん自身のお子さんも30分以上は外で遊ばせないようにしているし、ご自身が預かっている保育所のお子さんたちも同様だそうです。

そんな状況にありながら、ではさっさと安全な場所へ……といってもそれぞれの生活や事情があって、なかなかそれも出来ない人たちがほとんどです。けれど、子ども達は外で元気に遊ぶことが一番。思い切り飛び回ってお腹いっぱいに空気を吸うことができるように。せめて昼間の保育の時間だけでも……そういう想いから上國料さんはこのアイディアをFacebook上に書き込んだのが7月23日だそうです。

そこから2~3週間の間、お金のこと、システムのこと、様々な問題をクリアして約1ヶ月後の8月30日に第1回目の移動保育が実施されたのだそうです。

しかし、このプロジェクトが確実なものとなって行くにはまだまだ課題は山ほどあります。
たった一回の移動保育で子ども達の安全が守られるはずもなく、永続的に長いスパンで取り組まないと意味がありません。そのためにはまだまだ費用も必要ですし、常に放射線に関しての情報も得ていなくてはなりませんし、子ども達に対しての様々な対応も必要です。

現在は主にFacebookを使って活動の報告や支援の呼びかけをしていますが、こういうことに対しては民間の反応がとても早くて、いくつかの協力企業も出てきているそうです。また、飲料メーカーとの協力も得て自販機の売上げの一部を運営費として活用できるシステムも組まれているそうです。

こうしてシステムを確実なものにしていき、今現在は1人500円でお預かりしている費用をいずれは無料にしたいと上國料さんは語っています。

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「結局、他県に頼る支援のあり方は長続きしません。県外避難には限界があります。本当の意味でフクシマの復興のことを思うのだったら県内で経済がきちんとまわる仕組みを考えないと成り立たないと思うのです。」

上國料さんのこの言葉は、その後の被災地の状況を見て回るほどに私の中で重みを増していきました。被災地のことを何よりもよくわかっているのは、そこに生きる人たちです。その人たちがきちんと生活できる状況を作らないと本当の意味での復興は成り立たない。

原発問題に悩むフクシマのみならず、この言葉は被災地や、そしてこの先どんどん大変さをましていく日本の社会全体に対してもしっかりと心に留めなくてはならない言葉だと感じました。

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この訪問の時に、上國料さんが私に見せてくれた一枚の資料があります。

26julyJG.jpg「放射能汚染地図」とタイトルされたこの資料は、群馬大学の早川教授がまとめたもので、3月以降大気中に放出された放射線量を4月8日に文科省がネット上に公開した数値データをもとに作られた物で、これを見ると爆発以来どんなふうに放射能が風に乗ってひろがったのかがよくわかるのです。

そして、これを見ると「フクシマ」だけが問題なのではなく、東日本の多くが何らかの影響を受けていることも、また「フクシマ」の中でも安心して活動できる場所があることも一目でわかる地図でした。詳細は、この地図を作った早川教授のブログ「放射能汚染地図の読み方」をごらんください。

ちなみに、先ほどの政府が示した「30キロ圏内」の注意地区の地図とこの日、郡山に向かうルートとこの地図を重ねてみると………

水戸ー郡山3

こんな風になるんですね。

実は、今回「フクシマ」を通ることに、私の息子はとても恐怖心を持っていました。そして、水戸で夜のご飯に「海に近いからお魚美味しいだろうし、お寿司食べようか。」と言ったら「絶対嫌だ」と言いました。息子は、今回の旅行に当たって彼なりにいろいろ調べていたようです。そして福島原発から放射能の水が海に流れたこと、風の向きで30キロ圏内でなくても放射線量の値の高い地域があることなどから「怖い」になったようです。

それに対して私は「今回通るところは30キロ圏内からははずれているし、大丈夫だよ。」という声がけしかできませんでした。その「大丈夫」の中には、「高速道を通過するだけだから」というニュアンスも含まれていたわけです。それは確かにそうなのでしょう。けれど、3月以降放出された放射線はその土地土地の土壌に染みこんで、それが時には風に舞う塵に乗って、時には海の流れに乗って、この先も消滅することなく回り続けます。

それは「ここは30キロ圏外だから」という言葉で安心できるものではありません。そして、そのばらまかれた放射線の有り様は、政府からはわかりにくい数値データとしてしか提示されてきません。さらに、その放射線に汚染された土壌を除染するシステムも充分ではありません。ここに来て、以前みた東大の児玉教授の「子ども達のために」と必死で声を荒げて訴えていたあの声がより現実味をまして迫ってきました。

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一方でそういう事実をふまえながらも考えなくてはならないことがあります。それが「風評被害」です。

先の汚染マップで示したように、放射線の流れは福島のみに降り注いだわけではありません。そして福島の中でも流れが届いていない地域もあります。「福島」という発音だけで恐れを持ってしまう状態は避けるべきなのです。

上國料さんが行う移動保育は、決して他県に連れて行くというものではありません。同じ福島県内で深呼吸も土いじりもできる土地もちゃんとある。

一方で「被害」はわたしたちにも及ぶ可能性がある。「自分たちももしかしたら」という感覚を持ってこの問題を福島だけのものにしてはいけないのだと思うのです。世の中には流れがあるから、すべてのことはその流れの上にあるから、いついかようにしてその流れが自分に向かうのかは誰にもわかりません。正しい知識で防いでいかないと、いずれは日本全体がその影響を受ける可能性は充分にあります。

福島の人びとは、福島で生きるから自分たちが今の状況の中でより良い明日のために精一杯戦っています。それを単なる「恐れ」だけで避けるのはその頑張りを踏みにじることになる。
かといって、じゃぁ、「福島のものを怖がらずに食べましょう」も違うと思うのです。今の福島にとって、何が必要なのか。どうしたら福島の経済が回り出すのか。「今」を正しく見た上で防ぐべきところは正しい知識で防ぎ、けれど必要以上に恐れることなく考えていくことが大切なのだと思いました。

ちなみに、先に書いたように「福島」を恐れていた息子は、この旅の帰り道で会津若松に立ち寄ったときに、「ぼくは福島でまだお金を落としていないから」と、会津の名産の絵ろうそくを求めるためにあちこち奔走していました……。こういう形の支援を彼は考えていたのですね……。

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「とにかく、考えていても始まらないから。」

移動保育プロジェクトを立ち上げてあっという間に第1回までこぎ着けた上國料さんはこう言いました。「公的な補助なども考えないのでしょうか?」との問いに、「公的な補助を待っていたら時間がかかりすぎますから……。」と答えました。

今までの状況を見ても、それはよくわかります。考えていても始まらないし、子ども達の健康を考えたら国のなかなか進まない支援などあてにせずに一刻も早くやらねばならない。

今回のこの移動保育プロジェクトに限らず、そして福島の人びとの健康に限らず、この問題は日本全体に大きな影響をもたらすものとして一刻も早く意識を持って、正しい認識を持って、みんなで取り組んでいかなくてはならないことなのだ……たとえば風評被害を減らすために正しい知識や情報を学び取ること、それだって大切な支援の一つだ……。と、そう思ったのです。

そして願わくば、こういう正しい情報を正確に一刻も早くに公表できる日本の国であって欲しいし、除染など専門知識や技術が必要なジャンルに必要な専門家が必要なだけ動けるような体制を整えて欲しい……。(今現在、国が出してくる情報よりも海外からのものの方がわかりやすく信憑性があるのが現実です。海外の情報のように「わかりやすく」「活かしやすい」情報をなぜ自分の国のニュースで得られないのでしょう?)

国や公的機関自体がすぐに動けないのだったら、今それぞれでできる事を精一杯頑張っている人たちに活動できる資金やシステムを整える支援を即座にとってくれたら……。それが何より大きな支援になるのに……。

その部分についてどうにもままならない国や東電の姿には、やはり怒りすら覚えるのです。

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福島移動保育プロジェクトは、現在活動用の募金を受け付けています。また、スポンサーも募集しています。

民間で頑張っているこういう活動が多くの人に支えられて未来を開いて行かれるように、多くの人の協力が得られるように祈りつつ、上國料さんと別れを告げて次の目的地仙台~石巻に向かいました。

福島移動保育プロジェクトの詳細や活動の報告などはこちらのページからどうぞ。

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被災地をめぐっての3日間~3石巻・仙台 へつづく

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伊藤 美知子 :

フクシマ白河の地より昨日に引き続きコメントさせてください。
昨日偶然にツイッターから駒村さんのブログを見つけ内容に感動しました。福島の情報も私の知る限り「正しい情報」だと思います。
移動保育の話は知りませんでした。
福島の保護者でも地域によって考え方が違います。
放射線量の違いによるのでしょうか。
白河市内の小学校ではガラスバッチが夏休みには配られていますが、私の住む西郷村は妊婦は別ですが、子供たちには10月から配られるそうです。

除染による指導も少しずつですが広報などで呼びかけがあり、落ち着いた今だからこそ、みんなが自分の家の周りから始めていけば一石二鳥きれいな町(村)になっていくのではないでしょうか。
そんな簡単なことではないことは勿論わかっています。
でも前向きにしていないと心が風評などでしぼんでしまいそうになるのです。
私は今普通に生活していますよ。家庭菜園の野菜もよく洗って食べてます。(いやさすがに食べない時期もありましたよ)

この辺の社長たちに仕事で取材することもあるのですが、とても前向きですよ。むしろ原発前より真剣にいろいろ考え始めている感じです。家族とは何か・自分にできる事は何か・地域のために何ができるか。

私もしらかわ地域(県南地域)の情報発信者としてがんばっていくつもりです。
新聞には載らない事実がたくさんあります。

長くなりましたがまた拝見させていただきます。石巻・仙台はもっと大変な作業になるのでしょうね。
今まで通り本当の今の気持ちを期待いたします。

ありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

komacafe :

>美知子さん

二日間続けてのコメント感謝いたします。
今回、いろいろな地域を歩いてみて思ったことは、「被災地」と一緒くたにしてしまうことの危険性です。
石巻でも津波を受けた地区とそうでない地区があり、家が流された地区と浸水したけれど家が無事な地区とがある。
福島の原発被害もそうですよね。汚染された地区はまちまちで、それぞれの復興の仕方もまた別々になる。

そこで感じたことが、周りの人間が被災地と一緒くたにして支援活動や応援の仕方を均一にすることなんか無理なんだ、という事。
そして、復興で一番力を発揮できるのは、もともとの土地を知っている地元の人。
そういう方々が真知子さんおっしゃるように「自分の家のまわりのことからはじめる」事をすれば、たぶん一番効率的に、そしてより有益に復興の道を進めるのではないかと思いました。

仕事で取材……とおっしゃると、記者さんですか?
私はその「社長さんたちが前向き」だという言葉にとても希望を持ちました。
会社や地域のリーダーの立場にある人が前向きに考えて進めることが、何よりも必要だと思うのです。
そういう感じがあるのだとしたら、真知子さんの地域はきっとステキな復興を遂げられるのではないかと思いました。
そういうところもふまえて、是非「埋もれている事実」の発信を是非お願いいたします。私はそういう情報を受信して、中継してまた伝えていきたいと思っております。

被災地でない人間は、被災地の人びとがそういう気持ちになれるように、そういう面からの支援をするのがいいのではないかと思った次第です。
このまとめでも、そう言うことについてを書いていこうと思いました。

ありがとうございます。感想・ご意見お待ちしています。

伊藤 美知子 :

情報を発信してくださる方がいる事実。ありがたいことです。
昨日も花火の風評被害? がっかりしますが、慣れっこになってきています。ひどい話は山ほどあります。怒ってもぶつけようがないのです。
県民性なのでしょうか皆よく耐えていますよね。

私は記者ではありませんが、このたび「がんばろう ふくしま」地域活用PR事業でホームページを作ってふくしま県南の「しらかわ」の生の声を発信していく仕事を3月31日まで行っていきます。ツイッターやブログ、you tubeなどで、スタッフ5人が農家さんや生産者さんを取材し、がんばりや、取り組む姿勢を全国に発信していきます。
上からのマスメディアだけではなく下から上へ伝えていくことも大事なのではないでしょうか。嘘いつわりのない情報を発信していくことが、「しらかわ」の活性化につながると考えて県の農林事務所の仕事を受託しました。
皆前向きになってきています。私達も首都圏の販売のイベントをしていきます。私の出来ることを少しずつ行動に移すことそれが今一番大切なことです。

南三陸の津波のあとを見ていろいろ考えさせられました。自然の力にはかなわない。人間は小さい。悲しみを乗り越えて生きていく人がたくさんいる。人はすばらしい。
人っていいですよね。

人を中心に「しらかわ食人」でしらかわの食(職)を紹介していきます。(まだトップページしかできていません。)

また長くなってしまいました。
駒村さんの記事を楽しみにしております。
わかりやすく、いやみなく的をえていてとても参考になります。
ありがとうございます。

komacafe :

茨城、福島、宮城を走ってみて感じたことが、福島の人びとが一番前向きじゃないかな……と言うことでした。
とはいえ、土地柄もあるでしょうし、県の全体をまわっているわけではないから一概には言えないのですが。

花火の件については本当に残念です。一番残念なのは、「復興」に向けて頑張っている人たちの気持ちをそぐようなこと。被災していない人間のほとんどが被災地の人のためにできる事は、復興に向かう気持ちを応援することなのに、その反対のことをしてどうするんだ?……なんか情けないです。
でも、そういう事を言っていてもしょうがないので(わからない人はわからないままで……わからない自分たちのこと自体が見えていないのですから)美知子さんおっしゃるとおり怒りをぶつけても仕方がないと思います。だから、できる事を少しずつ、おっしゃるそのお言葉通りお互いにいろいろ小さくてもできることを積み重ねていって、いつか風評におどらされた人間がバカみたいに思えるような世の中にしちゃうしかないんだと思います。

私も、できる事頑張ります。地元の美知子さんたちが頑張っているのですから。

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PROFILE

駒村みどり
【すまいるコーディネーター】

音楽活動(指導・演奏)、カウンセリングや学習指導、うつ病や不登校についての理解を深める活動、長野県の地域おこし・文化・アート活動の取材などを軸に、人の心を大切にし人と人とを繋ぎ拡げる活動を展開中。

信州あそびの学園 代表

Twitter:komacafe 
HP:コマちゃんのティールーム
  信州あそびの学園

facebook:Midori Komamura
     信州あそびの学園
笑顔をつなぐスマイルコーディネーター

アメブロ:【うつのくれた贈り物】


WebマガジンNgene特派員
(長野県の文化、教育、地域活性化などに関わる活動・人の取材)
【羅針盤】プロジェクトリーダー。

詳細は【PRPFILE】駒村みどりに記載。

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