そして、その室賀氏の姿に重なってくるのが星野佳路氏のありかた。
子供のころから「古くさいなぁ」と思っていた自らの家は軽井沢の歴史ある温泉旅館。なぜこんな古いところに人が来るのだろう?という疑問は、やがて世界中のリゾートを見て回るうちに「そうか、これなんだ」というイメージと結びつくのです。
星野氏によって古い温泉旅館「星野温泉」は「星野リゾート星のや」として大胆に変わりました。訪れたそのたたずまいは、新しくて斬新で、「最先端」を各所に取り入れていましたが、けれどなぜかどこか懐かしい風が吹いていたのです。それはやはり、室賀氏と同じように新しいこと、アイディアをどんどん取り入れて、曰く「進化できるテーマ設定」をしながらも、「守るべき歴史の重み」はきちんとその根っこにしっかり流れているから……。
そして星野氏はそのテーマに、そこに働くものたちと見事に足並みをそろえて取り組んでいるのです。その手法のあれこれをお聞きしましたが、そこにあるのは「規律」とか「決まり」ではないのです。イメージの統一。みんなでひとつのイメージを持って、そこに向かう。やることはバラバラかもしれないけれど、ひとつのイメージに向かってそれぞれが自由に取り組むから全体の足並みはそろっていく。
室賀氏にしろ、星野氏にしろ、どんどん新しく進化するテーマを取り入れ、取り組んでいきながらもそのテーマのそこに流れているしっかりとした歴史に支えられたものが、人の心に安心や信頼といったイメージを伝えているから単なる「奇抜」なものではなくて新鮮で豊かに拡がるものとして、受け入れられてきたのでしょう。
新しいもの、面白いもの、驚きのあるアイディア。
こういうイメージを確かで安定したものにするのは「歴史」とのつながり。
歴史とはすなわち、そこに活きた人々の思いや心の温もりの集積であり、結果であり、学びの結果でもあります。そのイメージをしっかり持って新しいものを生み出す。その「つながり」が生み出すものが与えてくれる豊かさ……それはお二人の実績からも見て取れるかと思います。
鏑木武弥氏が土から受け取ったメッセージを飯田の市田柿のなかに見て、柿の歴史を徹底的に突き詰めた結果が、いまの「かぶちゃん農園」の基礎にあります。歴史や土地の力を受けとめた鏑木氏が柿をテーマにして生み出したものが、人々に伝わってどんどん拡がっていっています。
それはまた、小布施の町並みを作り上げた市村次夫氏の「歴史に学ぶ」という言葉にもつながってきます。小布施の今の町並み……町づくりのお手本として、多くの人が訪れる街、小布施を作り上げたその根本にあるのは「歴史に学ぶ」人々の姿でした。
六名の方々の収録の一回一回が終わるたびに感じたのは、自らの持つイメージをきちんと人に伝わる形にし、それを示すことの出来た人々から与えられる力がもたらすものの大きさです。そして、その力がどこから与えられるのだろうと改めて振り返ってみると、「歴史」というひとつのキーワードが浮かび上がって来るのです。
自らの夢……イメージを形にし、きちんと人に伝えることの出来た人たちの魂の言葉に「命」や「重み」……さらに「安心感」や「信頼感」を与えるもの……それは「歴史の重さや温もり」。
その土地に流れる時間や人々の思いをしっかり受けとめて、その歴史……その土地の「命の集大成」をエッセンスに加えたら、どんなに新しくて奇抜で、とてつもないと思われるアイディアさえも、しっかりとした形を持った「イメージ」として人に受けとめられ、伝わり、拡がっていく。
一方で、そのままでは時の流れの中に「古いもの」として忘れ去られてしまうはずの「歴史」に新しい命を吹き込むのが新鮮で奇抜なアイディアであるのです。その相互関係が是部妙なバランスの中で成立したときに、そこにあるイメージは豊かな香りを放って人々を魅了するのです。
そんな魔法の力が歴史と新しいアイディアにはあって、それを現実のイメージとして示すことのできたのが、この【羅針盤】の人々なのです。
アイディアのイメージを実らせる魔法は「歴史」。
歴史には魔法の力がある。
夢をあきらめないための後押しをしてくれるのも、歴史の力。
それぞれの人々の言葉の中には、実際にそれをどうするのかのヒントがたくさんつまっていたのです。
(*オーディオバイオグラフィー【羅針盤】については、六名各氏が語った言葉の中から大切なキーワードと思われるものを四つずつ選んで取り上げたメールマガジンが発行されています。また、CDの方はWebページにて紹介しています。)
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