5 「イメージ」活用の実例
「悪いイメージ」「マイナスのイメージ」は、人を恐怖やパニックに駆り立てる。
「良いイメージ」「プラスのイメージ」は、人にあこがれや生きる力をもたらす。
その観点で今の世の中を見てみましょう。
毎日メディアから垂れ流し状態の「ニュース」。事件性のあるものや、衝撃的なものが優先して取り上げられます。そしてその刺激はとても強いから視聴者もそれに食いつきます。
かつては人が殺されたり、自らの命を絶ったり、といった人の命に関する事件は「大事件」だったのに比べ、そういう類のニュースが余りに氾濫する現代はいつの間にか「人の命が消える」ことの刺激性が薄れてしまって、ゲームのバーチャルの世界ではもう「当たり前のこと」になっていますし、リアルな「死」も人々の中では次第に「日常のもの」というイメージになりつつあります。
人が交通事故で亡くなったくらいでは「またか」。免許講習で流れる飲酒運転による悲惨な事故の映像も、ある意味その「またか」のイメージを助長しています。あの映像を見て「自分も気をつけよう」と思うものはどのくらいいるのでしょう?見せつけられる悲惨な事故と悲劇に辟易し、その重い時間を「やり過ごす」事にしか頭が向かないというのが正直なところなのではないでしょうか。
たとえば。
あの映像を、「飲酒運転をいかに断るかの方法」の映像に変えたらどうでしょう。世の中、実際に車があって乗って帰らなくてはならなくても、日本という国は酒のつきあいを断ることに対して非常に抵抗が大きい国。「つきあいが悪い」とか「上司に従わない」と言われたら、いくら悪いこととは知っていても断れない人だっているはずです。それをうまく断る方法を伝授したり、良い対処の仕方を伝えたりして、それによって「よりよい明日」が待っている……という明るいイメージを伝えたらどうでしょう。
たとえば。
あの映像を、「事故時の人命救助」で人の命を救うものに変えたらどうでしょう?今、たとえばもし、目の前で事故が起こったとしても実際に周りの人間はどう動いたらいいか知らない人がほとんどです。救急時の対応を知っている人間が1人でもいれば「運が良い」。初期処置が命に関わる心拍停止などの緊急の時、とっさにどう動いたらいいのか、それによってどれだけの人が救われるのか、というデータを示し、それによって命を救われた人びとの言葉を聞いたら、「もしその場面にあったら自分もやってみよう」と思う者が1人でも増えるのではないでしょうか。
飲酒運転を断れず、それで事故が起きて人が死んで、「みんながこんなに不幸になるんだ」という暗く辛いイメージを延々と見せつけられ、後味が悪く胸が痛んだり不快になったりはしても、それで「自分も気をつけよう」と心から自らに言い聞かせるものはどのくらいいるのでしょう。たぶん、あの類の映像をみて「自分のこと」として受け取るものは皆無でしょう。「自分はあんな風にはなりっこない」と人ごとのように受け止める者の方が多いでしょう。人はもともと、悪いことからは目を背け、近づきたくないのが普通ですから。
それより「ああ、こうすればいいことがあるんだ」「こうすればうまくいくのだ、なるほど……」そういう方が、人は楽なのです。人は怒られるよりは誉められたい。人は悲しいことよりも嬉しい事の方が好き。もともとそれは人間の当たり前の心の動きです。