2010年 11月 29日

1 「寄り合い」 の減少がもたらしたもの

「カフェミーティングというものをやろうと思っているのだけれど」

そう声をかけられたのが2007年、冬の足音が近づく頃でした。声をかけてきたのはその頃ネット上でコミュニケーションツールとして盛り上がっていた「SNS」の長野県版、N[エヌ]を立ち上げプロデュースしていた宮内俊宏氏。

Nのいちメンバーとして交流を楽しんでいた私が日ごろ「日記」や自分のHP、ブログなどで訴えていた言葉が宮内氏の目に止まり、このカフェミーティングの手伝いをしてはもらえないか、という申し出だったのです。

「カフェミーティング」の構想の元にあるのは「井戸端会議」。

かつてはよく見かけるこういった「寄り合い」の光景も今は昔になり、ご近所さんで集まって老若男女、性別や年齢差を越えた「やりとり」の出来る場所がどんどん消えていました。それはあらゆる場所で起こっていることでした。

私が学校職員として新卒の頃、よく先輩の先生が「おい、みんな今日は飲み行くぞ」と誘ってくれて、仕事の後で1日のことや生徒のこと、指導方法のことなどを先輩後輩入り乱れて熱く話をしたものです。

不思議と、学校を支えるアイディアはそういうときに生まれます。職員会で書類を前にしかめっ面で手を挙げて発言して……というよりもずっと面白くてワクワクするようなアイディアや意見が出ました。気楽でオープンな気持ちだからこそそれぞれの経験や人間味が大いに発揮されて、いかにみんなが真剣に生徒のことや指導のことを考えているのかも伝わってきました。

かつてはそれが学校の中でも行われました。「休み時間」の時にお茶を飲みながら。運動会や音楽会などの大きな行事の後、学校の体育館でPTAの皆さんと。あらゆる「気楽な交流の時間」はすなわち創造の場でもありました。

けれど、学校での「校内の宴会」は禁止されました。ごく一部の「不祥事」の事件のせいですべての「学校の飲み会」は不謹慎とされたのです。

また休み時間にお茶を飲む先生たちを見て、学校でお菓子食べたりお茶飲んだりなんて……という一息のリラックスさえも許さない意見から、さらに学校にどんどん増える雑用で……先生たちはそんな時間さえも削ってかけずり回らねばならない情勢の中、「井戸端会議」「寄せ集まりの雑談の場」が削られていきました。

さらに普段の職員の交流がほとんど無いため、年度末などの慰労会でさえも盛り上がることがなくなっていきました。

かつて若い先生は教育への情熱や生徒への想いを語り、年配の先生は自らの経験談や教師として必要なヒントを語り、その中からお互いがより良く新鮮なアイディアを生み出したり発見したりしました。

年齢や性別、経験の多少という「枠」を越え、時間の規制や言論の規制も越えた、そういうところから生まれてくるものが学校を支えていたのは確かです。その場を失った学校が温もりを失いベルトコンベヤー化するのは仕方がないことかもしれません。

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Photo : Midori Komamura

第2章 「イメージ」は豊かな社会を示す羅針盤

1 「寄り合い」の消滅がもたらしたもの

2 N-ex Talking Over ~可能性が、見えた!

3 フォーラム南信州「祭の流儀」 (文化庁事業)

4 そして【羅針盤】へ 〜社会という荒波を進むための指針〜

5 まるでジェットコースター。〜人間味を引っ張り出す対論〜

6 「イメージ」を実りに変える魔法 ~【羅針盤】の人々〜

・「ザガットサーベイ長野版」の反響と誕生秘話   大井潤
・「八幡屋礒五郎」スパイスの利いた経営戦略    室賀豊
・「小布施町」古さを極めた最先端         市村次夫
・「かぶちゃん農園」土が教えてくれた使命     鏑木武弥
・「ヴィラデスト」おいしい生活はここから生まれる 玉村豊男
・「星野リゾート」が放つ日本再生の魔法      星野佳路

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Photo : Midori Komamura

昨日、この原稿を書いている私の横に来て、娘が小さな声で聞いてきました。

「お母さん、センター試験まであと1ヶ月しかないけど、今から頑張ってももう無駄なの?間に合わないの?」

そういって泣き始めたのです。

娘は今、大学受験に向けて勉強中の高校3年生。「なりたいもの」に向かってそれなりに努力しています。

けれども、高校の「勉強」はなかなか思うに任せず、第一志望の大学は模試でいまだにC判定以上(合格圏)になったことがありません。決して何もやっていないわけではありません。でも机に向かっていてもうダメだ、という感じだけで、問題が頭に入ってくる実感をなかなか得ることができない……もうすでに、推薦で合格を決めた人もではじめている今、今まで何もやってこなかった自分はあと1ヶ月じゃもうダメなんだ……。

「自分ではなんにもやってこなかったとホントに思うの?あきらめちゃったの?」

そう問うと、先日の学校での学年集会での話をしてくれました。

「学年集会でね、先生がこう言ったの。『あと1ヶ月しかない。もうすでに合格を決めた者がいる中で、君たちは、まだこれからだ。あと1ヶ月しかないから、ここから本気でやらないと、今まで怠けてきた君たちはもう間に合わないぞ。』って。お母さん、私、今までやってこなかったからもうダメなのかなぁ。1ヶ月じゃぁ、何もできないのかなぁ。そう考えると、勉強する気にぜんぜんなれなくて苦しいんだよ。」

聞いていて、私はものすごく腹が立ってきました。

「あのね、あなたは今まで何もやってこなかったわけじゃないでしょ。ちゃんと勉強もして、自分なりに頑張っているけど、思うにまかせない状態だから苦しんでいる。それから、受験が迫ることでの不安もある。もしあなたが本当にサボっていて受験なんかどうでもいいと思っているのだったら、今こんなに苦しくはならないよ。苦しいのは、頑張っているのに思うにまかせない自分がいて、この先の不安ばっかりが目についちゃうからだよ。」

「でもね、1ヶ月頑張ってももう無駄だとしか思えないんだよ、先生の話聞いてから。1ヶ月がんばって間に合った人の話でも聞けたら頑張れるのかもしれないけど……。」

「1ヶ月という時間を、その不安で振り回されて過ごすのか、それとも、今まだ与えられている時間を悔いが残らないように自分なりに過ごすのか……。あなたはどっちの方がいいのかはわかるよね。人と比べても焦るだけだよ。自分が合格するイメージを頭に持って、そしてそこに向かって今やることをやる、それでいいんじゃない?今よりもひとつでも覚えてわかることを増やす。そうして一問でも二問でもわかる問題が増えれば2点、4点とアップするでしょ?」

「…………。」

それまで泣いていた娘は、泣き止んでじっと考えはじめました。

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自分の高校時代、大学受験を目前にしてやっぱりものすごい不安がありました。私は親から「浪人は許さない。国立大学しか行かせない。」と言われていたので、地元の国立大学一校しか受験しないことになっていました。だから、そこがダメだったら大学もあきらめなくちゃいけない、という状態にあったんです。教師になりたい、という夢も断たれることになってしまうのです。

落ちたらどうしよう……そんな不安と闘いながら、しかし合格して大学で学ぶ自分を思い描き、そこに向かってやるしかないと毎日必死でした。

「1ヶ月」という時間は確かに高校一年からの三年間を思うと「ほんの一ヶ月」に当たるのかもしれません。けれど、その1ヶ月あったら……たとえば一日英語の構文ひとつ覚えるだけでも30構文は覚えられます。決して「もう遅い」ではないのです。

それなのに、不安でつぶれそうな生徒を前にして「あと1ヶ月じゃ間に合わない」という言葉はいったい何をイメージさせるのでしょうか。

たぶんこの教師は「それだから頑張れ」という激励のつもりだったのでしょう。しかし、この言葉のように「まだいけるかも」というイメージを持ちながら頑張っている生徒の不安を煽って、その踏ん張りを足元から崩すような言葉は……果たして「激励」になるかどうかはちょっと考えるとわかりそうなものです。

もっと言うと、この教師は自分が受験生だった頃の不安は全くなかったのでしょうか。それとも、教師として上に立って「指導」しているうちに、自分の昔の記憶など忘れ去ってしまったのでしょうか。

いずれにしても、今必死で最後の頑張りや踏ん張りをしている生徒たちの気持ちを全くイメージしていないこの言葉。それは生徒たちの「頑張りたい」という気持ちや、「まだできることがあるかもしれない」というイメージを蹴散らすものでしかありません。

「一日に、このくらいを目安にもうひとがんばりしてみよう。そうすればまだまだできることはあるよ。」

そういう「頑張れる足がかり」をイメージさせる言葉をなぜ提示することができないのでしょうか。

生徒たちは、怠けたくて怠けているわけじゃないし、誰もが皆、合格したいという気持ちで必死です。けれど、そうではない現実があるし、頑張ったからといってなんでもかなうわけではないのも現実です。

そういう現実に立ち向かっている生徒たちには、では「どう立ち向かうのか」という道を示すのが「先生」の仕事であるべき。

残念ながら、今はこういう先生はものすごく少なくなっています。点数でしか生徒を見ることが出来ない。そしてもっと言うと、「そんな教え方しかできない」自分たちの責任は全く振り返ろうとはしない。

「おまえたちがダメだからダメなんだ」

それを理由にしたら、教師失格だと私は思うのです。職務怠慢です。

全国の受験生の皆さん。
今は、自分としっかり向かい合ってくださいね。苦しいと思います。自分がものすごくだめなやつに思えるかもしれません。でも、本当にダメなのは、そういう周りの「誤ったイメージ」に振り回されて今できるはずのこともあきらめてしまうことなのです。

本気の自分の姿を、イメージしてみてください。
その自分が一時間でどのくらいのことができそうか、イメージしてみてください。

その一時間を、一日に3倍したら、どのくらいのことができますか?
そして一日3時間でできることを、1ヶ月………30倍したら、どのくらいのことができますか?

ね、すごいでしょ?
あなたはそこまでできるんですよ。あなたはそこまでやれるのですよ。だから大丈夫。

「今できることを積み重ねること。」人は何かするとき、そうするしかないんです。

逆を言うと、それさえちゃんと出来ればそれだけのことをやり遂げることができるはずなんですよ。

1ヶ月もまだあります。1ヶ月も頑張れるんです。
終わったわけではありません。今からでもはじめられることです。

みんな、頑張れ!

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Photo : Midori Komamura

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PROFILE

駒村みどり
【すまいるコーディネーター】

音楽活動(指導・演奏)、カウンセリングや学習指導、うつ病や不登校についての理解を深める活動、長野県の地域おこし・文化・アート活動の取材などを軸に、人の心を大切にし人と人とを繋ぎ拡げる活動を展開中。

信州あそびの学園 代表

Twitter:komacafe 
HP:コマちゃんのティールーム
  信州あそびの学園

facebook:Midori Komamura
     信州あそびの学園
笑顔をつなぐスマイルコーディネーター

アメブロ:【うつのくれた贈り物】


WebマガジンNgene特派員
(長野県の文化、教育、地域活性化などに関わる活動・人の取材)
【羅針盤】プロジェクトリーダー。

詳細は【PRPFILE】駒村みどりに記載。

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