(1)「イメージ」の連鎖が作ったまちなみ 住む人が作るまち、小布施
今年のN-geneでは小布施に関して四回ほど取り上げています。
二月には「安市」を、五月には「境内アート小布施×苗市」を取材する中で見えてきたこと。それは小布施という町はかつて高井鴻山を中心とした旦那文化が盛んな土地で、豪商がその財力を文化や地域のために惜しげなく提供し、葛飾北斎をはじめこの小布施を訪れた文化人・著名人によって常に磨かれてきた小布施の文化の歴史のなか、信州の中では珍しく「外のものを積極的に受け入れる」という気風を育ててきたこと。
その気風や歴史は今でも大切に受け継がれ、その精神やそれを生かした町並み作りに取り組んだ【羅針盤】の市村氏との出逢いをひとつのきっかけに「小布施」に惹かれ、やって来た人がいます。それが現在、小布施の町の図書館「まちとしょテラソ」の館長である花井裕一郎氏です。
東京で映像作家をしていた花井氏は、仕事の関係で小布施町を訪れてそこに活きる人々や、町並みを作り上げているいにしえから受け継がれる心に感じるものがあり、ついにはこの小布施町に移り住み、さらにちょうどその頃に全国に公募されたこの町の図書館の館長に応募。2008年に館長就任以来、まちとしょテラソの館長として様々な取り組みを続け、全国から注目されつつあります。
このまちとしょテラソは、まさにイメージの固まりと言ってもいいのではないでしょうか。映像作家でもある花井氏の思い描く図書館のイメージは、「コミュニケーションスペース」。静かで厳粛な、と言う今までの図書館のイメージを見事に突き破ったこのまちとしょテラソは、しかし実は本来の図書館のあり方……原点に立ち返ったものなのです。
情報の集積所であり、また発信地でもある。そういう文化的なものを発信しつつ、そこで人々の交流も生まれ、発展していく。情報や文化を「享受」されるのではなく、自ら探り、体感できるペース。それがまちとしょテラソのイメージです。